その家は、街の片隅で時が止まったかのように静まり返っていました。住人である高齢の女性、佐藤さん(仮名)は、夫に先立たれてから徐々に気力を失い、家はいつしかモノで溢れかえる「ゴミ屋敷」と化していました。離れて暮らす娘の美咲さん(仮名)は、帰省するたびに心を痛め、何度も片付けを試みましたが、佐藤さんは「これはまだ使える」「勝手に触るな」と激しく抵抗し、親子の溝は深まるばかりでした。美咲さんは、母親の健康状態と火災の危険性を案じ、途方に暮れていました。そんな時、美咲さんは地域の包括支援センターに相談。そこで、母親の行動が単なる頑固さではなく、認知機能の低下や孤独感からくるものである可能性を指摘されました。専門家の助言を受け、美咲さんは、母親の心に寄り添いながら作業を進めてくれるというゴミ屋敷専門の清掃業者に依頼することを決意します。清掃当日、業者のスタッフはまず、佐藤さんの話をじっくりと聞くことから始めました。モノ一つひとつに込められた思い出や、なぜ捨てられないのかという気持ちを、否定することなく受け止めたのです。そして、「これはお母様にとって大切なものですか?」と一つずつ確認しながら、佐藤さんのペースに合わせて作業を進めていきました。その丁寧な姿勢に、頑なだった佐藤さんの心も少しずつ解きほぐされていきました。美咲さんも、ただ見ているだけでなく、母親の思い出話に耳を傾け、一緒にモノの要不要を判断する作業に参加しました。それは、親子の断絶していた時間を取り戻すかのような、穏やかな時間でした。数日後、全てのゴミが運び出され、専門のクリーニングによって家は見違えるようにきれいになりました。がらんとしたリビングで、佐藤さんはぽつりと「ありがとう」と呟き、美咲さんの手を握りました。ゴミ屋敷の清掃は、単に家をきれいにするだけでなく、閉ざされていた母親の心を開き、壊れかけていた家族の絆を再生させる、奇跡のようなきっかけとなったのです。
あるゴミ屋敷清掃がもたらした家族の再生物語